無題

祖父が亡くなったのは小学生に上がるときだった。
心臓が悪く、物心ついたときから床についていた。
 
孫に対してなので当たり前だとは思うが
物静かな祖父はあたたかく、やさしかった。
昼下がり、祖父の布団の横で遊ぶのが好きだった。
ただ、二つ下の「お爺ちゃん子」の弟がそばにいると
祖父に負担をかけたくなかったのか遠慮していたように思う。
 
目覚めることのなくなった祖父の枕元で
親戚一同とともに悲しんでいたとき、
「お爺ちゃん子の弟が可哀想だ」
というようなことを誰かが言った
その言葉を聞いて
好きだった祖父を弟だけのものにされるような気がして
祖父が愛していたのが弟だけだったかのように言われて
悔しくて悲しくて
居たたまれなくなって
祖父の枕元に一緒にいた弟に
「おじいちゃんが死んだのはお前が負担をかけたせいだ」
と吐いてしまった。
その言葉を自分の耳で聞きながら
言ってはならないことを言ってしまった、
取り返しのつかないことをしてしまったと思った。
あまりにもひどい事を自分と同じように悲しみの中にいる弟に投げつけた。
さいころの過ちと片付けることができない傷を弟の心に刻んだ。
大人になってから弟にはっきりと傷ついたと
言われたのだから疑う余地もない。
 
何もこんなことまでぶちまけなくていいと思うし、
おもしろくもない、知ってもらう必要もない話だ。
ただ最近、いい人だとか優しい人だとか言ってくれる人が多くて
そんなに上等な人間ではないということを
知ってほしかったからかもしれない。
天邪鬼なのだろう。
 
善人面をしたままでは伝わらないこともある。
 
傷つけてしまったことは今でもはっきりと思い出せる
取り返しがつかないことをしてしまったと言う自覚もある
傷つけた方が覚えてるのだから
当然傷つけられた方はもっと覚えている
 
免罪符を求めてるわけではない。
傷つけた側もつらいということ
だが、傷つけられた側は絶対にそれ以上つらいということ
時間は癒してはくれるが消してはくれないこと
あんな思いはもう二度としたくないということ
そんなことを思ったからだ。
 
ただ、自分に限っていえば傷つく方が気が楽だったりする
自分が何を言いたいのかわからない。
うまくまとまらない